◇ 大声で罵倒するなどした心理的虐待
心理的虐待を受けた側の事情を考慮して、別居直後での婚姻関係破綻を認定し離婚請求が認められた事案
夫が飲酒時に妻やその家族を大声で罵倒するなどし、そのために穏和でおとなしい妻がストレスをため、精神的、肉体的に疲れ果て別居するに至った事案において、遅くとも妻が離婚調停を申し立てた時点において婚姻関係が破綻していたとして 離婚請求を認容したものの、その慰謝料請求は認めなかった事案。
第一審判断の要旨(東京地判平成16年11月2日)
X:妻(原告) Y:夫(被告) A:長女
・平成8年9月 婚姻
・平成13年1月 長女A出生
・平成15年6月 別居
Yは酔いが回ると、Xをなじる粗野な言葉を大声で吐いたり、Xの家族について乱暴な悪口を言うようになった。Yは、酒を飲んでいない時にはXをなじることは無かったが、酔いが深まると近所に聞こえる様な声でXを罵倒することも一度ならずあった。Xは、穏和でおとなしい性格であることもあって、Yに対し面と向かって反論したりすることができず、次第に心の中にストレスがたまっていった。
Xは、Yの母親や義姉とは円滑な家族関係を築いていたが、嫁としての気兼ねや、Yの意向もあり、Xの実家とはほとんど連絡を取っていなかったこともあって、ストレスの解消が図られなかった。YはこのようなXの変化に気付かなかったうえ、平成15年6月頃には、父の入院もあって仕事が非常に忙しくなり苛立ちが強くなり、同月22日、長女Aの入浴をめぐって、激しくXをなじる言葉を浴びせた。Xは、Yの酔いに任せた粗野な言動、育児の疲れ等から、精神的、肉体的に疲れ果て、Yとの結婚生活に限界を感じ、同月24日、Aを連れて実家に身を寄せた。Xは同日夜、迎えに来たYの言に応じず実家にとどまり、同年7月7日に離婚調停を申立て、現在もYと別居しており、離婚の決意に変わりはない。
以上によれば、XとYとの婚姻関係は、円満な関係に回復することは著しく困難であり、遅くともXが離婚調停を申し立てたときには、破綻したものと認められる。したがって、Xの離婚請求には理由がある。