◇ 不貞行為とは?
不倫関係とは、基本的に既婚者が配偶者以外の異性と恋愛をし男女関係にあることを指します。日本の婚姻制度は一夫一婦制であり、夫婦は互いに配偶者以外の者と性交渉を持つべきではないと解釈されており、これを一般的に貞操義務と言います。
この貞操義務は現行法には明文規定がありませんが、配偶者の不貞行為(=不倫行為)を法的な離婚原因としていること(民法770条1項1号)や、重婚の禁止(民法732条)などから、法律上の義務と考えられています。
この貞操義務に違反する、つまり不倫関係を持つということは、貞操権侵害に基づく不法行為として損害賠償責任を負うことになります(民法710条)。
◇ 誰に慰謝料請求(損害賠償請求)ができるのか?
不倫行為における慰謝料請求のパターンは、下記のようになります。
① 被害者 妻(夫) → 加害者 夫(妻)の不倫相手
② 被害者 妻(夫) → 加害者 不倫をした夫(妻)
被害者である妻(夫)は加害者である、不倫相手と不倫をした夫(妻)の両方に慰謝料を請求することができます。また、不倫相手にも配偶者がいた(いわゆるW不倫)場合には、双方の配偶者から慰謝料の請求をされる場合も当然発生します。
◇ 慰謝料請求のために必要なもの(事実・証拠)は?
慰謝料の請求は下記の要件を満たしている必要があります。
① 配偶者と異性との間に不貞行為(※1)があったこと。
② 相手方が、配偶者が既婚者と知っていて(※2)不倫・不貞行為を行ったこと。
③ 不貞行為の事実があった時点で、夫婦関係が破綻(※3)していなかったこと。
④ 不倫行為・不倫相手を知った時から3年以内であること。
⑤ 慰謝料請求権を放棄していないこと(示談等をしていないこと)。
⑥ 不貞行為の証拠(※4)があること。
※1 この場合の不貞行為とは肉体関係にあることを指します。一緒に食事やデートをした、手を繋いだ、キスをしたというような事実だけでは慰謝料の請求は難しいでしょう。
※2 慰謝料請求は、不法行為に基づく損害賠償請求ですので、当事者の故意又は過失が要件となります。つまり不倫の相手方が配偶者を既婚者であると認識している、もしくは注意すれば認識できた場合に損害賠償責任が発生します。配偶者が既婚の事実を隠して、そのことを信じるのに過失がない場合は、不倫相手への責任追及はできないと言うことになります。(この「過失がない」については、配偶者が相当悪質なウソをついて、相手方を信用させていたという事実(証拠)がないと、認められないケースが多いようです)
※3 婚姻関係が破綻(離婚を前提に別居していた等)した後で関係を持った場合には不貞行為にはあたりません。
※4 不貞行為の本人同士が事実を認めた場合を除いては、明確な証拠が必要です。特に、裁判等で争う場合には証拠がなければ裁判官はその請求が正当なものなのかを判断することができません。できるだけ不貞行為を決定づける証拠の準備が必要です。
不貞行為の相手方への慰謝料請求について
① 不倫相手と直接交渉できる場合
相手方が話し合い(慰謝料の請求)に応じる意思があり、交渉がスムーズに進むようであれば、直接話合い慰謝料について示談を成立 させることが理想であると思われます。慰謝料の内容、支払い方法、不倫関係の解消等を明記した示談書を作成します。
② 相手に直接交渉に応じる姿勢が見えない場合
不倫の相手方に内容証明郵便による慰謝料請求を行います。内容証明を送るメリットとして、今後訴訟となった場合に、請求したことを明確に証明できること、また、慰謝料の請求についての「本気度」の意思表示ともなり、相手に対する心理的圧迫効果もあります。
※相手と直接やり取りをしたくない場合などは、この時点から弁護士等を代理人として交渉に当たってもらうことも可能です。ただし、それ相応の弁護士費用が必要となりますので、請求する慰謝料との兼ね合いで検討されるのが良いでしょう。
③ 相手に示談に応じる姿勢が見えない場合
内容証明郵便を送っても反応がない、示談に応じる姿勢が見られない場合には調停・訴訟の手順を踏むことになります。ご自身で行うことも可能ですが弁護士に依頼されることをお勧めします。
※当事務所で、離婚問題に詳しい弁護士のご紹介も可能です。
◇ 慰謝料請求をする際の注意点
慰謝料の請求をする場合にも、法律的なルールを守って行う必要があります。つい感情的になりルールから外れた、度を越した方法で相手に対して請求を行えば、状況によっては刑法上の問題(名誉棄損や脅迫罪)や民法上の問題(損害賠 償)を逆に問われてしまう可能性があります。
相手の自宅や勤務先に押しかける、しつこく電話をする、脅迫めいた言動をとる、暴力をふるう、違法な方法で証拠を収集する等の行為は絶対に行ってはいけません。
◇ 慰謝料の金額はどうやって決めるのか?
不貞行為をした場合の慰謝料の金額については、一般的には100~300万円程度の場合が多いようです。相手方の資力を全く考慮しないで高額な慰謝料を請求しても問題解決を難しくするだけですので、示談成立を考えているのであれば注意が必要です。よく、最初の慰謝料提示の際に、「相手を懲らしめる・不倫行為を後悔させてやる」といった感情から非常に高額な請求をされる方がいますが、ほどほどにしておかないと、相手方に交渉の余地がないと判断されてしまい、問題解決が難しく・長期化する恐れがあります。
また、訴訟によって慰謝料が決定される場合には、被害者の社会的地位や職業、離婚に至る原因となったかどうか、婚姻期間、年齢、不倫関係の期間・原因、不倫の状態、子どもの有無など様々な事情を考慮して算定されることになります。
◇ 不貞行為の証拠について
不倫の相手に慰謝料を請求する為には、証拠が必要です。
一般的に証拠となるものは
●ホテルに出入りする写真・ビデオ
●不倫を推定できる内容の手紙・メール・メモ・写真
●ホテルの領収書・クレジットの明細
●興信所の調査報告書など
◇ 慰謝料を請求されてしまったら
内容証明郵便等で慰謝料の請求があった場合には、何らかの回答をする必要があります。放置した場合には、一方的に訴えられるなどの不利益を被る可能性があります。
不貞行為をした事実がある場合でも、場合によっては事情説明や条件交渉などによって、比較的穏便な解決を図ることができる場合もありますので、まずは冷静に相手の請求を検討し対応します。
最初に、相手の慰謝料請求が正当な物であるかを確認します。
・不貞行為の相手方が悪質な方法で既婚の事実を隠していなかったか
・不貞行為を行った時点で、婚姻関係は破綻していなかったのか
・不倫関係が相手に強要されたものではなかったか(脅迫的なものでなかったか)
これらを確認して、該当することがあればその点を証明した上で反論を行います。
上記のような事実がない、もしくは証明できない場合には慰謝料請求の内容、請求 金額の妥当性について検討します。その上でまずは示談交渉を行います。
交渉において注意すべきは、中途半端な言い訳は通用しないと言うことです。下手な言い訳や責任転嫁は、相手(慰謝料の請求者)の感情を逆なでし、交渉を難しくさせるだけです。不貞行為の非を認め、謝罪の気持ちがあるのであればきちんと謝罪し誠意を見せた上で、実現可能な金額を提示していくことが必要です。
示談交渉がまとまらなければ、調停・訴訟ということになります。最初の慰謝料請求の時点で、相手側に弁護士が代理人として就いている場合には
交渉決裂=調停→訴訟という流れになる可能性が高いでしょう。
その場合、訴訟を少しでも有利に進めるためにはこちら側も弁護士に依頼する必要があります。ここで考えて欲しいのは、高額な弁護士費用をかけて得られる利益がどれほどの物かと言うことです(これは訴える側にも当てはまります)。
示談交渉においての、慰謝料の金額のギャップが数十万円であった場合なら、弁護士費用と相殺してしまいます。長期間に渡り、精神的なストレスにさらされる事を考えれば、ある程度の譲歩をして示談に応じた方が得の場合もあります。