◇ 統合失調症を理由とする離婚請求
統合失調症(精神分裂病)が原因となった離婚請求が認められた事案
統合失調症(精神分裂病)と診断された妻に対する夫からの離婚請求について、精神病が強度で回復の見込みがないとは認められないから、民法770条1項4号に基づく離婚請求は認められないとしながら、離婚を継続し難い重大な事由があるとして、民法770条1項5号に基づく離婚請求が認容された。
控訴審判断の要旨(東京高判昭和57年8月31日判時1056-179)
A=夫(原告・控訴人) B=妻(被告・被控訴人)
結婚前からの現在に至るまでのBの精神病院での入院歴、Bのたび重なる暴言・暴力等を認定した一方で、昭和43年に入院した時の病名は統合失調症であり、幻覚、幻聴、被害妄想があった。現在では軽快しているものの完全には治っておらず、現実離れの傾向があり、現実の夫、娘にあまり関心がなく、かすかに人格の崩壊が見られるが、意思能力を欠くほどではない。Bは統合失調症であるが、それが強度であり、かつ、回復の見込みがないとは認められないから、民法770条1項4号に該当する事を理由とするAの離婚請求は理由がない。
しかしながら、A・Bの婚姻は遅くとも昭和44年10月頃には破綻するに至ったものというべく、その主たる原因は、Bの粗暴で家庭的でない言動にあるものと認められ、また、Bの発病した主たる原因は、Bの御姫様のような未熟な性格および炊事、掃除、洗濯等をすることなく、何かにつけてよしよしとして甘やかされ気ままに育てられてきた享楽的な家庭環境から一転してわがままのきかない通常の結婚生活に入ったことにあるものと認めるのが相当である。Aに対しBにその母親同様の寛大さをもって接することを求めることは難きを強いるものであって、AがBに人並みの主婦としての素養を身につけ、人付き合いをし、家事を全うしてくれるように頼んだとしても、夫として当然の頼みであったといわなければならない。
また、Aが離婚を希望してその意思を表明したことが、すでに発病していたBによくない影響を与えたとしても、Aにそのような意思を起こさせた原因はBにあって、やむをえない。
そうすると、民法770条1項5号所定の婚姻を継続し難い重大な事由があるこ とを理由とする控訴人の離婚請求は、正当として認容すべきである。