◇ 有責配偶者からの離婚請求が棄却された事案
障害をもつ子の存在などを理由に、有責配偶者からの離婚請求が棄却された事案
有責配偶者である夫からの離婚請求に対して、身体障害者の長男の介護などを理由に、離婚によって妻が精神的・社会的・経済的にきわめて苛酷な状況に陥るとして、離婚請求を棄却した。
X:夫(原告・控訴人) Y:妻(被告・被控訴人)
・昭和58年7月 婚姻
・昭和59年2月 長男出生(肢体麻痺、1級の身体障害者)出生
・平成9年頃 X、Aと不貞関係
・平成9年5月 X、家を出て以後別居。Yが長男の介護を行う
・平成9年9月 Y、Aに対する慰謝料請求訴訟提起 X、離婚調停申立て
・平成10年7月 AがYに慰謝料250万円を支払う和解成立
・平成12年2月 Xが月25万円の婚姻費用を支払う調停成立
・平成17年1月 X、婚姻費用を月11万5000円に減額
控訴審判断の要旨(東京高判平成19年2月27日判タ1253-235)
XはAと不貞関係になり、Yとの婚姻関係を破綻させた有責配偶者である。XとYとの間には、成人であるが、肢体麻痺の障害を負い、両手両足が不自由な状態にある1級の身体障害者である長男がいる。長男は着替え、食事、入浴等の日常生活全般にわたり介護が必要な状況にあるので、実質的には未成熟子と同視することができる。
そして、Yが長男の日々の介護を行っており、、Yが就業して生活に必要な額の収入を得ることは困難な状況にある。また、離婚した場合には、Yが現住居からの退去を余議なくされる可能性もある。これらを総合的に考慮すれば、XとYの離婚は長男の今後の介護・福祉等にいっそうの困難を生じさせ、離婚によりYが精神的・経済的にきわめて苛酷な状況に置かれるので、離婚請求を認容することは著しく社会正義に反し、信義誠実の原則に照らし認容することができない。