◇ 離婚後の妻の経済状況を考慮した判例

約1200万円の離婚給付では離婚後の妻の生活が苛酷な状態になるとして、離婚請求が棄却された事案

有責配偶者である夫からの離婚請求に対して、第一審判決は、約1000万円の離婚給付により離婚後の妻が経済的に苛酷な状態に置かれることはないと判示したが、控訴審判決は、夫が離婚給付として約1200万円の支払いを提示したものの、それでは離婚後の妻が経済的窮境に陥るとして離婚請求を棄却した。

X:夫(原告・被控訴人)  Y:妻(被告・控訴人)
・昭和53年    婚姻
・昭和54年    長女出生
・昭和58年    長男出生(障害をもつ)、X長男を邪険に扱い
・昭和61年    二男出生
・平成5年      Y、離婚調停申立て。Xが謝罪し、調停不成立  Y、別居
・平成12年    長男、医療少年院収容
・平成17年    Y、婚姻費用分担の申立て。月14万円を支払う調停成立  X、離婚調停申立て

控訴審判断の要旨(東京高判平成20年5月14日家月61巻5-44)

Yは、現在資産も安定した住居もなく、Xから給付されている月額14万円の婚姻費用分担金を唯一の収入として生活し、高齢に加えて、更年期障害、腰痛および抑うつ症の疾病を患い、新たに職に就くことはきわめて困難であり、仮に離婚請求が認容された場合には、Xからの婚姻費用分担金の給付を受けることができなくなり、経済的な窮境に陥り、罹患する疾病に対する十分な治療を受けることすら危ぶまれる状況となることが容易に予想される。
また、身体的障害を有する長男に対するXの態度が愛情を欠き、独力でYが長男の生活の援助を行わざるをえないことになれば、Yを経済的、精神的にさらに窮状に追いやることになる。
これらに鑑みると、Xの離婚請求を認容するときは、Yを精神的、社会的、経済的にきわめて苛酷な状態におくことになるといわざるをえないから、離婚請求を認容することは著しく社会正義に反するものとして許されないとして、第一審判決を取り消し、離婚請求を棄却した。

 

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