◇ 日々の言動が離婚原因となったケース

DVに匹敵するような場合でなくとも日常生活の言動によって離婚原因の存在が認められうることを判示した事案

別居後4年が経過した夫婦について、「DVに匹敵する場合でなければ婚姻関係を継続し難い重大な事由があるとは言えない」との夫の主張に対し、「日常生活の言動が婚姻関係の継続に必要な夫婦の信頼を破棄して修復し得ないほどに至ることはあり得る」「そのような場合、DVに匹敵する場合でなくても、婚姻関係を継続し難い重大な事由があるというべきである」旨判示した事案

第一審判断の要旨(東京地判平成16年9月29日)

X:妻(原告)   Y:夫(被告)
・平成4年     婚姻
・平成12年10月  別居

XがYの暴力によって負傷したというのは1回程度にとどまるが、夫婦喧嘩に際してのYの言動が粗暴で、Xに対するいたわりも感じられないものであって、Yによる暴行・虐待といったダメージを受けていたことが認められ、その様態・程度は決して軽視しえないものであったとうかがわれる。
この点につき、Yは、Yによる暴行・虐待を否定したうえ、その言動が夫婦喧嘩によくみられる程度のものであったと供述するが、自らの言動がXに与える影響を考えない、身勝手な言い分としか解されず、少なくとも前記認定を妨げうるものではないと言わなければならない。
Yが前立腺に病気を抱えていたが、性交渉に際して、痛みが伴うためか、支障があったこと、その原因がYの病気によるため、Xとしては、特に不満を言うこともなかったが、Yも、性交渉に支障がある苛立ちもあってか、性交渉をもった際にも、Xには、「心のない、乱暴なもの」としか受け止められず、性交渉も自ずと避けられるようになっていったことが認められる。
新婚旅行に際しても、投薬量を増加した影響によるのか、性交渉がもたれることなく、その後も、性交渉の機会は数える程度しかなかったと認められるところ、その原因の全部がYの前立腺炎に起因しているとは言い難いとしても、Yの疾患に起因していることは否定し得ないところである。前立腺炎の患者が排尿時に痛みを覚えるだけでなく、性交渉の際にも、射精の前後に痛みを覚えことは知られているところであって、Yの供述する性交渉の際の痛みというのも、これをいうものと解される。その痛みに原因して、性交渉に支障があったと推認しうる。X・Yの性交渉の実際も、健常な夫婦から見ると、その婚姻関係に亀裂が入るのもやむをえないようなものであったと言える。
前記事実に加え、X・Yの婚姻関係は、別居後すでに4年近くが経過しているところ、その間、Yにおいても、X・Yの婚姻関係を修復するために努力したような形跡はうかがわれず、また、Xにおいても、Yの歯科医院のその後の経営に心配をみせても、Yと復縁することは一切考えていない事がうかがわれるのであって、すでに破綻していて、これを継続し難い重大な事由があると言わざるをえない。
Yは、婚姻関係を継続し難い重大な事由があるというためには、いわゆる「ドメスティックバイオレンス」に匹敵する場合でなければ足りないように主張するが、そのような事態に至れば、婚姻関係が解消されるべきは当然として、そのような事態に至らない場合であっても、日常生活の言動が婚姻関係の継続に必要な婦の信頼を破壊して修復しえないほどに至ることはあり得るところであって、それが夫婦喧嘩の際の言動であれば、なおさら婚姻関係の修復を不可能とする程度に至る危険があることはいうまでもない。
そして、そのような場合に至れば、Yの主張するようなドメスティックバイオレンスに匹敵する場合でなくても、婚姻関係を継続し難い重大な事由があるというべきであって、Yの主張は採用しえない。
したがって、Xの本訴請求中、婚姻を継続し難い重大な事由があるとして、Yとの離婚を求める部分は理由がある。

 

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