◇ 認知症が原因となった離婚請求
認知症により判断能力を欠く状況が原因となった離婚請求が認められた事案
てんかん発作を繰り返した結果、脳組織が損傷して認知症となった妻に対する夫からの離婚請求について、妻の精神状態は、夫婦の同居協力扶助義務を果たすことが全くできない程度に痴呆化しており、改善の見込みがないことを理由に、民法770条1項4号に基づく離婚請求を認容した。
控訴審判断の要旨[東京高判昭和58年1月18日家月36巻4号73頁]
妻の精神疾状は基底に精神薄弱があり、反復するてんかん発作のため脳組織が損傷され、脳実質が広範に委縮した器質的障害によって結果した痴呆化である。そして、今後さらにてんかん発作を引き起こせば痴呆化がより進行することが予想され、現在の精神状態が改善される見込みはない。
夫は、離婚しても妻が生活保護を受けて療養できるよう、福祉事務所に申し出て生活扶助措置を講ずることへの了解を得るとともに、入院中の病院からは生活保護に基づく医療扶助が決定された場合に担当機関の指定を受けることの内諾を得ており、また、夫は離婚後もできるだけ妻に面会に行き、子どもらに会いたいと言えば面接させ、妻を精神的に援護すると誠意を示している。右認定の事実によれば、妻の精神状態は、夫婦の同居協力扶助義務を果たすことが全くできない程度に痴呆化していて、それがさらに進行する可能性はあっても、改善の見込みがないから、離婚原因としての「強度の精神病にかかり回復の見込みがないとき」に当たると解するのが相当であり、妻の病状にかかわらず、夫と妻の婚姻の継続を相当を認める場合には当たらないというべきである。