◇ 生活苦による売春を理由とした離婚請求
生活苦による売春を理由とした夫からの離婚請求が認められた事案
夫が別居中の妻に満足な生活費を渡さず、妻が生活費を稼ぐために売春を行い、父親不明の子を産んだ事を理由に民法770条1項1号の不貞行為に該当するとして夫が提訴した離婚請求について、離婚を認容した事案
上告審の判断の要旨[最高裁 昭和38年6月4日判決]
自己と長男の生活を支えるため、飲食店等を転々とし、街頭に立って生活費を補う等のことをしなければならなくなったことは、まことに同情を禁じえないものがあり、そのようになったことについては、夫たる上告人に相当の責任があることはこれを認めなければならないが、およそ、妻の身分のある者が、収入をうる為の手段として、夫の意思に反して他の異性と情交関係を持ち、あまつさえ父親不明の子を分娩するがごときことの許されないのはもちろん、被上告人(妻)と同様、子供を抱えて生活苦にあえいでいる世の多くの女性が、生活
費をうるためにそれまでのことをすることが通常のことであり、またやむをえないことであるとは、とうてい考えられないのである。
しからば、事ここに至ったことについては、婚姻関係の維持のため格別の努力を払ったことも窺われず、ことに被上告人(妻)の前歴を知っている上告人(夫)としても、その責任は決して軽くないが、他に特段の事情が認められない限り、上告人(夫)にもっぱらまたは主としてその責任があるものと断定することは困難である。したがって、右のごとき事情の下においては、上告人(夫)に対し婚姻の継続を強いることは相当ではなく、婚姻の解消により被上告人(妻)のこうむる不利益の救済は被上告人(妻)が上告人(夫)に対し財産分与の請求をすることができるかどうかの問題として、別途考慮すれば足りるものと考えられる。