◇ 親権について
● 親権・監護権とは
親権とは、法律的には財産管理権と身上監護権から成っています。財産管理権とは未成年の子の財産を管理し法的な手続きの代理行為を行う権利・義務。身上監護とは、子どもの世話や教育に係る権利・義務をいいます。婚姻中は、父母が共同で子に対する親権を持っていますが、離婚をする場合には、どちらか一方が親権を持つ(親権者になる)ことになっており、親権者を決定しないと離婚はできません。
親権者となった親は、子どもと一緒に生活して、相手方に相談なく子どもの生活や教育などに関することを決めることができます。まれに、親権から身上監護権を分離して、父親が親権者(財産管理者)で母親が監護者となり、子どもと一緒に暮らして世話をするというケースもあります。
たとえ、親権者や監護者でなくても、親と子という関係に変わりはなく、扶養の義務がなくなるわけではありません。また、子どもと会う権利(面会交流権)や、財産を子が相続する権利などは親権者でなくなっても失われることはありません。
身上監護権 (監護教育) | ●住居指定権(子どもの住居場所を指定する権利) ●懲戒権(子どものしつけの為に、懲戒する権利) ●職業許可権(子どもが就職や営業を始めたりすることを許可する権利) ●第三者に対する妨害排除権(子どもの引き渡しを拒む権利など) ●身分上の行為の代理権(氏の変更、相続の承認・放棄など) |
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財産管理権 | ●財産管理、財産上の行為(契約など)の代理権 |
※親権と監護権を分離するケースでは、両親ともに子を養育するのに不適格という判断が下された場合第三者(祖父母)が監護者となるケースなどがあります。
◇ 親権者・監護権者の決め方
● 協議離婚の場合
基本的に親権者・監護者とも夫婦間の協議によって決定します。一般的には、子どもが10歳くらいまでの場合は生活の面倒をみる必要性が高いため母親が親権者となるケースが多いようです。子どもが15歳までは、子の発育状況に合わせて、子の意思も尊重する場合もあります。15歳以上であれば、基本的に子の意思を尊重して決定することになります。また未成年の場合でも結婚していれば、成人したとみなされるので親権者の指定は必要ありません。
※協議離婚で親権者と監護者を分ける場合は後のトラブルを防ぐ意味でも、離婚協議書(公正証書)などで書面にしておきます。
● 調停離婚・審判離婚の場合
話し合い(協議)では親権者の決定ができない場合は、家庭裁判所に離婚調停の申立を行い、その中で「親権者指定」の申立を行うこととなります。さらに調停でも合意ができない時は、離婚訴訟を提起して、離婚の判決とともに裁判所から親権者を指定してもらうことになります。
親権者の決定については、子の利益・福祉を最優先に考え、両親の経済力や住環境・生活状況、態度、心身の健全性、子への愛情、子の意思・年齢・適応力などを総合的に考慮し判断されます。(子が15歳以上であれば子の意思を尊重します)
裁判所の審判では、母親が親権者となりケースが圧倒的に多いのが実情です。過去の統計では約85~90%が母親を親権者としています。とくに子が幼いほど母親が有利となってきます。
● 子が複数いる場合の親権
未成年の子どもが複数いる場合、特にその年齢が低い場合には、兄弟姉妹が別れ別れになってしまうことで子どもたちの人格形成に大きな影響を与えてしまう可能性があります。そのため裁判所による審判では、一方の親が全員の親権者になることが原則とされています。ただし、やむを得ない事情などがある場合は親権を分けることもあります。
◇ 親権者・監護権者の変更
一度親権者を決めた後でも、子どもの成長のために適切でないと思われる場合には、親権者を変更することができます。この親権者の変更は両親の協議で決めることはできず、必ず家庭裁判所に「親権者変更」の調停の申立※を行い、調停で合意できなければ審判で決定することとなります。
調停での合意又は審判によって変更が認められた場合は、市町村役場に調停証書・審判書の謄本を提出して手続き(子どもの親権者欄の書換)を行います。
● 親権者変更の理由
・親権者の死亡・行方不明
・親権者の長期入院・海外への転勤
・親権者の養育意欲がなくなった
・子どもの生活上の不便、子どもの意思
・親権者として不適切な事情(暴行虐待・破産宣告・性的不品行など)
● 監護権者の変更
監護権者の変更は、家庭裁判所に申出ることなく、親権者・監護権者の話し合いで変更できます。話し合いで合意できない場合は、親権者の変更手続きと同様に家庭裁判所において調停・審判を行うことになります。
◇ 面会交流権について
● 面会交流権とは
面会交流権とは、離婚後、親権者又は監護者にならなかった親が、子どもと面接・交渉(会ったり・手紙を交わしたりする)権利です。法律上に規定する条文はありませんが、親として有する当然の権利として裁判上も認められています。この権利は離婚前の別居中の親についても認められています。
● 面会交流の必要性・注意点
一緒に生活していない親と会うことによって、子どもが親の愛情の確認をすることができ、また同居している親からは得られない、会話・相談・遊び・考え方などを知ることができるなど、子どもの精神の健全な成長にとって大切な効果があります。一方、両親の監護方針などに大きな食い違いがあると、子どもはどちらの親の言うことを聞いたらいいのか混乱し、動揺してしまいます。こういった精神的な負担や緊張の継続は子どもの成長にマイナスとなってしまいます。面会交流について決める場合はこれらを総合的に考慮する必要があります。
◇ 面会交流の方法と決め方
面会交流の方法は基本的には両親の協議によって決めることができます。具体的な例としては、
・週あるいは月の特定の日・時間に特定の場所で行う
・宿泊をともなうもの
・学校の春休み・夏休み中の相当期間を一緒に過ごす
・誕生日や記念日、新学期など子の成長の節目
・手紙や電話など間接的な交渉のみ など
どの方法についても、子の福祉を最優先に考え、子どもに過度の負担や不満足感を与えない配慮が必要です。また、決められた日程に、子どもの体調や学校の行事、親側のやむを得ない都合などによって多少の変更が必要となった場合については、当然許されます。その場合は、相手方にきちんと事前連絡を行い、事情説明をして理解を得る必要はあるでしょう。
また面会交流の際に、子どもを連れ去られてしまうのでは、という不安がある場合には、第三者に面接に立ち会ってもらう方法もあります。例えば「公益社団法人 家庭問題情報センター」では面接への付き添いやカウンセリングなどのサービスを提供しています(有料 対応地域あり)
●面接交渉についても、協議で合意できない場合は家庭裁判所での調停・審判といった手続きで決定されることになります。
◇ 面会交流を拒否したい場合
面会交流は親に認められた権利ではありますが、子どもの福祉が絶対条件です。面会交流を行うことでかえって子どもの成長に悪影響を与えるような場合には、面会交流を認めない審判や判決が出る場合もあります。例えば、子どもが面会交流の日が近づくと体調を崩す、本心から相手と会うことを拒んでいるというような場合は無理に面会交流を行っても子どもに良い影響を与えません。方法や回数の変更をしたり、一時的に延期・中止も考える必要があります。一度決定した面会交流の内容の変更を求めて、相手方と話し合い・交渉を行うべきです。
しかしながら、相手方も強硬に面会の権利を主張する場合も考えられます。話し合いによって面会交流の内容を変更できない場合は、家庭裁判所に調停事項の変更または子の監護に関する調停を申立ます。そこで、これまでの面会交流の取り決めを行った調停や裁判条項の取消等を行います。
◇ その他面会交流について
● 祖父母の面会交流
法律上は、祖父母に面会交流権は認められてはいません。しかしながら、面会交流の考え方は子の福祉・利益を図るための権利であると解釈することもできます。子が成長する上で祖父母との良好な関係は、有益であることは間違いありません。子が精神的に健全に成長していくことにプラスになるのであれば、祖父母の面会交流についても尊重するべきであると思われます。
● 養育費と面会交流権
養育費の不払いを理由に、面会交流を拒否できるかということですが、養育費と面会交流権には関連がありません。道徳的には、自身の養育の義務を果たした上で、面会の権利を主張するべきであると考えられますが、法的には別の話になります。例えば、養育費の不払いを理由に面会交流を拒否して、相手方が面会交流を求める裁判を起こした場合には、他に面会交流を行うに当たっての不都合な事情がない限り、相手方の面会交流が認められないということはないでしょう。(調停などで、調停委員が養育費の支払いを促す説得はされると思います) 養育費の問題は、別途履行勧告や強制執行手続きによって確保するべきであると思われます。