◇ 別居について
離婚という決断をする前に、別居するという状況が考えられます。夫婦関係に容易に回復できない溝ができてしまった状況で、毎日顔を突き合わせていると、感情的対立はいっそう激しくなってしまいます。別居には、お互いに感情を整理するという冷却期間的な役割と、衝動的・軽率に離婚の判断をしてしまわない為の熟慮期間的な役割もあります。ただし、一方的に家を出て、その後の話し合いにも応じないといった状況になると、返って離婚を早める結果となる場合があります。一時の激情に駆られた行動には注意が必要です。
夫の暴力などから逃れる為に別居する場合など、別居に正当な理由がある場合は、自分から家を出て別居しても離婚の際に不利になることはありません。しかし、正当な理由もなく自分から一方的に家を出た場合(例えば他に好きな人ができた、一緒にいるのが嫌になったなど)には離婚の際に、財産分与や慰謝料の請求などで不利益となる場合があります。
◇ 別居の方法
● 合意の元に別居をする場合
ある程度、別居について計画的に行動ができます。別居中の住居については、仕事や子共の学校、別居の期間などを考えて、実家、友人宅、ホテル、ウィークリーマンション、賃貸で部屋を借りるなどの選択肢があります。
別居中の生活費についても、話合いを行い決めておく必要があります。別居の期間によっては郵便物などをどうするのかなども決めておきましょう。別居に当たって、自分の生活に必要な物を持ち出すことは問題ありません。しかし、相手の固有の持ち物などは持ち出してはいけません。持ち出して相手が困る物なども、今後の話合いに悪影響を及ぼしますので控えた方がいいでしょう。当座の生活費・現金・預金通帳なども必要になりますが、できるだけ相手と話合いをした上で持ち出すのが賢明です。
● 相手の暴力などから逃れるために別居する場合
この場合は、別居の合意を得ることはほとんど不可能だと思われます。相手に悟られないように、準備を進める必要があります。住居についての選択肢は前述の通りですが、DVなどの場合は市町村などに相談して施設に入ることができる場合もあります。強制的に連れ戻されたりすることを防ぐために、相手に居場所を教える必要はありません。しかし、今後の話を進めていく為にも、メールや携帯電話などで連絡を取ることができるようにしておく必要はあるでしょう。
また、暴力などから逃げる為に、急に家を飛び出すという場合もあるでしょう。事前の準備などはできませんから実家や友人宅に一時的に非難する形になると思います。その後、自宅から必要なものを持ち出すことになりますが合意別居の場合と同じように、相手の固有の物を持ち出さないなどの注意は必要です。
◇ 別居中の子供の問題
学校の問題などがありますが、離婚後も子どもの親権者になりたいのであれば、子どもを連れて別居したほうが良いでしょう。親権者を決める際に、話合いがまとまらず裁判所の審判になった場合には、裁判所は子どもの意思を尊重するとともに、できるだけ現状を動かさないという判断をします。つまり特段の問題がなければ、別居中に子どもと暮らしていた親を親権者とする判断を下す可能性が高くなります。
暴力などの緊急性がないのであれば、何よりも子どもの利益を優先して、別居の判断をする必要があります。
また、別居期間中であっても子どもと暮らしていない親が子どもに会う権利(面接交渉権)は認められます。もし、同居している親がもう一方の親に子を合わせようとしない場合は、家庭裁判所に調停の申立をすることができます。
◇ 別居中のお金の問題・婚姻費用
別居中であっても、夫は妻に対して生活費を渡さなければなりません。夫婦はお互いに婚姻費用を分担しなければなりません。婚姻費用とは、夫婦が社会生活をするための一切の費用を言います。衣食住費、医療費、養育費、教育費、交際費、娯楽費などがこれにあたります。この婚姻費用分担の義務はたとえ別居をしていても果たさなければならないのです。婚姻費用を相手が支払わないといった場合には、家庭裁判所に「婚姻費用の分担」の調停を申立ます。話合いで金額などを決めることができない場合は、家庭裁判所に決めてもらうことができます。
ただし、婚姻関係が破綻しており、その原因を作った配偶者(有責配偶者)からの別居による婚姻費用の分担の請求は認められなかったり、減額される場合があります。この場合も、子どもの養育費については請求することができます。
● 婚姻費用の金額について
家庭裁判所の婚姻費用の分担調停の手続きでは、婚姻費用の算定表※を参考資料として、金額の決定を行っています。話合いで金額を決定する場合などにも参考とすることができます。算定表は子どもの年齢・人数に応じてシートが作られています。
婚姻費用算定表の見方は、縦軸に支払い義務者の総収入※、横軸に権利者(請求者)の総収入が記載してあり、その交差する値が、婚姻費用として妥当であると判断される金額になっています。ただしこの算定表は、①子どもは公立の学校に通っている。②夫婦それぞれが住居費を負担。③権利者・義務者の収入を正確に把握している。この①~③が前提となっているため、私立の学校に通っている場合などは別途考慮が必要です。
※総収入とは
・給与所得者・・・・源泉徴収票の「支払金額」
・自営業者・・・・・・確定申告書の「課税される所得金額」