◇ 年金分割とは
近年の熟年離婚が増化している社会情勢の中で、離婚後の夫婦双方の年金受給額に大きな開きがあり、高齢・単身女性の経済的な困窮が問題となっていました。このような社会の実態を踏まえ、平成19年4月から、離婚時の年金分割制度がスタートし、平成20年4月からは、第三号被保険者(サラリーマン・公務員の妻など)を対象にした「三号分割」がスタートしました。
平成19年4月から始まった年金分割制度は、平成19年4月以降に離婚した人を対象に、配偶者の厚生年金・共済年金の報酬比例部分について、夫婦間の合意に基づいて分割ができるという制度です。注意すべきは、夫(妻)の年金全てが対象となるわけではなく、婚姻期間中の厚生年金の報酬比例部分(最大で1/2)が対象です。国民年金に加入している自営業者の妻などには適用されません。また、あくまで合意が必要ですので、相手方が認めないということになれば、家庭裁判所での調停や裁判を行う
ことになります。
また、三号分割という制度は、第三号被保険者(サラリーマンや公務員の妻など)が平成20年4月以降離婚した場合に、平成20年4月以降の期間の厚生年金の報酬比例部分を当事者間の合意なしに自動的に1/2で分割されることになっています。
◇ 年金分割の仕組みと対象期間
● 分割の仕組み
この年金分割の制度の仕組みは、夫が老後に受け取る年金を分けるわけではありません。つまり、「年金を受け取る権利」そのものを分割するようにな仕組みになっています。したがって、分割を行った配偶者が死亡しても受け取ることができますし、分割を受けても、自分が年金の支給年齢にならなければ老齢厚生年金は支給されません。
ここで言う、「年金を受け取る権利」とは、具体的には「保険料納付記録」です。この保険料納付記録とは、厚生年金保険料算定の基礎となる標準報酬を指します。厚生年金の年金額はこの標準報酬を元に算定されています。
簡単に言うと、夫婦の婚姻期間中の厚生年金の報酬比例部分を合算して、標準報酬の多い側から少ない側に、一部を分けるイメージです。妻が完全な専業主婦で厚生年金の加入履歴がないような場合は、夫の厚生年金の報酬比例部分の最大1/2が分割されることになります。
● 対象期間
年金分割の対象となるのは、婚姻が成立した日から、離婚が成立した日までの期間
三号分割の対象期間は、平成20年4月以降の第三号被保険者期間が対象です。
◇ 年金分割の分割割合について
離婚時の年金分割制度には、前述の通り、平成19年4月から始まった、「合意分割」と、平成20年4月から始まった「三号分割」があります。
合意分割では、分割についてとその割合を、夫婦の話し合いによる合意によって決定します。分割の案分割合の上限は50%で下限は分割を受ける人の分割前の持分に当たる割合です。例えば妻が分割を受ける側で、厚生年金の加入歴がある場合は、妻側の厚生年金の持分を削るような分割はできないということです。
この分割割合は、あくまで合意の基に行われますので、案分の限度内であれば任意で決めることができます。一方、当事者間で合意ができない場合は家庭裁判所において、調停・審判・訴訟によって決定することになます。
三号分割では、年金の分割割合に関する当事者間の合意は不要な為、案分割合は例外なく1/2となります。
つまり平成20年4月以降に離婚した場合に、平成20年4月より前の期間の案分割合を40%として合意しても、4月1日以降の部分については50%で分割されます。
この三号分割の例外として、分割をする側(三号被保険者を扶養している者)が、障害厚生年金の受給権者である場合で、障害厚生年金の額が減るケースでは適用されません。(これは自動的な分割がされないという意味で、合意による分割は可能)
◇ 年金分割の方法
合意分割では、年金の分割とその案分割合を合意する必要があります。
● 当事者間で分割の合意ができた場合
当事者間で合意できた場合は、公正証書または、公証人の認証を受けた私署証書を作成します(※1)。その上で、必要書類とともに年金事務所にて年金分割の請求手続きを行います。公正証書等がある場合には当事者のどちらか一方のみで手続き可能です。
(※1)平成20年4月1日より、当事者双方(代理人でも可)がそろって合意書
(※2)を年金事務所窓口に持参する場合には、公正証書等の「年金分
割案分割合を定めた書類」がなくても手続きが可能です。
(※2)「年金分割請求をすること及び請求すべき案分割合について合意してい
る旨を記載し、かつ当事者自らが署名した書類」この書式は年金事務所
に備え付けられています。
● 当事者間で合意できない時
年金分割を含めた離婚調停の中で話し合いが行われ、調停不成立の場合は審判、もしくは離婚訴訟を起こすこととなりそこで他の申立内容と合わせて決定されます。家庭裁判所での決定後は、年金分割の申請書を調停調書や審判書などの書類と合わせて、年金事務所に提出して手続きを行います。
年金分割の請求は、当事者の一方だけで行うことができます。年金分割の請求を受けた年金事務所は、決定された案分割合に基づいて当事者それぞれの保険料納付記録の改定を行います。手続きが終わると、改定後の保険料納付記録を年金分割の請求者とその相手方に対して通知をします。年金分割の請求には期限があり、原則として離婚の成立日から2年以内に請求しなければなりません。
◇ 年金分割の為の公正証書作成に必要な書類
●戸籍謄本
●印鑑証明書
●年金分割のための情報通知書※
●年金手帳のコピー等(基礎年金番号の確認ができる書類)
※年金分割のための情報通知書
50歳未満の方には、対象期間標準報酬総額が記載されています。50歳以上の方
で老齢基礎年金の受給資格を満たしている方、障害厚生年金の支給を受けている
方は、分割後の年金見込額も記載されています。
◇ 年金分割のための情報通知書の取得について
請求者の住所地を管轄する年金事務所に下記の書類を準備して申請を行います。
●年金分割のための情報提供請求書
●戸籍謄本
●請求者本人の国民年金手帳・年金手帳又は基礎年金番号通知書
◇ 年金分割を行った場合の老齢厚生年金の支給について
離婚時の厚生年金の分割制度は、年金額の算定の基礎となる保険料納付記録(標準報酬)を分割するものです。したがって、分割を受けた人が老齢厚生年金の受給権者である場合、自身の生年月日に応じた支給開始年齢に達しなければ年金を受給できません。
さらに注意が必要なのは、自身が老齢基礎年金受給資格を満たしていなければ、年金の分割をしたとしても、支給されないということです。老齢基礎年金の受給資格は、原則として保険料を納めた期間、保険料を免除された期間と合算対象期間※(カラ期間)とを通算した期間が10年間(120月)以上あることが必要です。
※年金額に反映されないため「カラ期間」と呼ばれています。合算対象期間には、○昭和61年(1986)3月以前に、国民年金に任意加入できる人が任意加入しなかった期間、○平成3年(1991)3月以前に、学生であるため国民年金に任意加入しなかった期間、○昭和36年(1961)4月以降海外に住んでいた期間などがあります。(いずれも20歳以上60歳未満の期間)