◇ 養育費の考え方
● 養育費とは
養育費とは、子どもを育てていくために必要な、食費・住居費・教育費・医療費・被服費・娯楽費、その他の費用を言います。親は、子が一人前になるまで扶養をする義務があります。その子の親である限り、一緒に生活していない親(父親のケースが多い)が養育費を払います。親権や監護権の有無は関係なく、親であれば支払い義務が生じます。内縁の夫婦の子の場合は、そのままでは法律上の親子関係がありませんので、養育費を請求するためには、父親の認知が必要です。
● 養育費はいつまで払うのか・支払い方法は
養育費は、未成年の子が成人するまでとすることが一般的ですが、家庭環境によっては大学卒業までや、就職などをする場合もあるので18歳までと決める場合もあります。支払いの方法は、月払いが多くなっていますが、一括払いなどで受け取るケースもあります。
例えば、養育費を支払う相手方が、将来的な支払い能力に不安があるような場合には、借入をしてでも一括で支払いを受けた方が安心です。また離婚時に不動産を売却して換金する場合などでも、養育費の一括請求をしてもいいでしょう。一括で請求した場合は、月払いでもらうよりも金額が低くなるケースが多いですが、確実に受け取ることのできるメリットは大きいと思います。また、もし将来的に養育費が足りなくなるようなことがあれば、事情によっては追加請求することも可能です。
◇ 養育費の金額の決め方・養育費の実情
養育費の金額については、父母の収入や子どもの生活費、教育費用、どちらが子どもを引き取るのかなどを考慮して算出します。現在では、家庭裁判所において養育費を決める場合には、養育費の算定表※を参考に金額の算定を行っています。平成22年度の司法統計によれば、家庭裁判所の離婚事件で決まった、夫が支払う子ども一人の場合の養育費月額は、2~4万円が最も多く全体の約47%となっています。ついで4~6万円が約20%となっています。
また養育費の支払いの現状については、厚生労働省の離婚した母子世帯に対する調査(平成18年)によると、養育費の取り決めをしていない場合が全体の58%、現在養育費の支払いを受けているのが19%となっています。 また、協議離婚では養育費を受け取ったことがないと回答をした家庭が、約21%あることから、離婚時の話し合いや、取り決めが十分に行われていないケースがあると推察されます。
◇ 養育費の支払いを確保するためには
養育費の金額については、離婚協議のなかで話し合いを行って決定します。その際には支払い義務者の経済状況や、子どもの教育費、生活費などを考慮・検討して決めることとなります。また前述の養育費算定表を参考にするのも良いでしょう。離婚協議で話し合いがまとまった場合に、その内容・条件を必ず書面にしておく必要があります。
養育費については、離婚後長期間に渡って支払われることになります。その間、当事者を取り巻く環境等が大きく変化する可能性もあります。転職・再婚・失業・病気さらには気持ちの変化など将来を完全に予測することはできません。不可抗力的な事情によってやむを得ず養育費の支払いができなくなってしまった場合はともかく、それ以外で養育費の支払いが滞ったり、止まってしまうといったリスクを避けるためにも、協議離婚の場合は離婚協議書の作成を必ず行ってください。そして、費用はかかりますが、離婚公正証書にしておくことを強くお勧めします。
通常、協議内容が守られず、養育費等の支払いが滞った場合に、その支払いを請求するためには、裁判所に申立なければなりません。つまり裁判による判決によって相手方の財産に対して差し押さえなどの強制執行を行い、養育費等を確保することとなります。しかし、公正証書を作成し、その中に「執行認諾文言」を入れておくことで、もし養育費等の支払いがされない場合、裁判を経ることなくいきなり差し押さえ等の強制執行手続きに入ることができます。このことで、迅速に対処できるだけでなく、相手方へ「支払いをしなければ、すぐ差し押さえをされてしまう」という精神的な圧力をかけることができます。
養育費の金額を含めて、離婚協議の話し合いがまとまらず、合意に至らない場合は、家庭裁判所に調停の申立を行います。調停でも合意できない場合は審判により裁判所が金額を決定します。調停で合意した場合の調停調書や審判書があれば、もしその内容に反することがあった場合は強制執行が可能です。
◇ 養育費の変更について
調停・審判で取り決めた養育費の増額・減額請求は原則としてできません。しかし、養育費を取り決めた当時、予測できなかった個人的・社会的事情の変化があった場合は変更ができます。例をあげると、親が勤めていた会社の倒産による失業、親や子の病気・ケガによる長期入院、物価上昇による養育費の増大などです。ただしこれは、相手方が経済的に対応できなければ認められません。また、毎月の養育費の増額ではなく、高校や大学の入学金や、入院等の医療費、監護者の失業や減収などの事情の場合に一時金としてその費用の請求が認められる場合があります。
一方、支払い義務者の側の事情が変わった場合、例えば支払い義務者の失業、病気や再婚によって子どもが生まれ生活が苦しくなったなどの場合には養育費の減額が認められる場合もあります。また、増額が裁判所に認められるのは、請求した時点からという場合もありますので、もし変更が必要は事由が発生した場合は早めに請求をおこなった方がよいでしょう。
協議離婚で養育費を決めている場合は、お互いが合意さえすれば養育費の額についての変更をすることができます。話し合いで合意できなければ、家庭裁判所の調停・審判の手続きを行うことになります。